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H26~フランス=ソルボンヌ大学からの留学報告Vol.7

8824c56c994d9f6e54bce08c8e97d4d0_M.jpg音楽研究科博士後期課程(音楽学) 七條 めぐみさん

今年は18世紀フランスの作曲家ジャン・フィリップ・ラモー(1683-1764)の没後250年に当たります。これを記念して、パリやヴェルサイユではラモー作品のコンサートや勉強会が数多く開かれています。私も先日、ソルボンヌ大学のラファエル・ルグラン教授が主催している「アトリエ・ラモー」に参加してきました。今月はそのことについてご報告します。
「アトリエ・ラモー」は2014年1月からソルボンヌ大学で開かれているイベントで、毎回ラモーの作品を一つ取り上げて様々な方向からアプローチをするというものです。このイベントの特徴は、発表だけでなくディスカッションや作品の実演もあり、シンポジウムとゼミとコンサートを一つにまとめたような内容になっていることです。残念ながら博士課程の講義と同じ時間帯に開かれていたため、私はしばらく聞きに行けなかったのですが、4月で講義が終わったので5月の回には参加することができました。
5月のテーマは「言語と音楽、フランスとイタリア」で、カンタータ《テティス》が取り上げられていました。カンタータとはバロック時代に生まれたジャンルで、オペラと同じくアリアとレチタティーヴォを中心とした声楽曲ですが、より小さな編成で演奏されることが特徴です。カンタータと言えばイタリアのA. スカルラッティや、ドイツで「教会カンタータ」を完成させたJ. S. バッハの名前が思い浮かびますが、フランスの作曲家はそれに比べるとマイナーかも知れません。それもそのはず、バロック時代のフランスではカンタータはイタリア音楽として扱われ、例えばブロサールの『音楽辞典』(1703年)では「歌詞がイタリア語の声楽曲」と定義されていました。しかし、1730年にかけてフランス語の詩を用いたカンタータが書かれるようになり、イタリアとフランスの音楽様式をミックスさせた「混合趣味les goûts réunis」を代表するジャンルとなりました。
ラモーのカンタータ《テティス》は、1715年から18年に書かれた若い頃の作品です。編成はバスの独唱、ヴァイオリン・ソロと通奏低音ととてもシンプルで、演奏時間は約11分。歌詞はギリシャ神話に基づき、全体におだやかな曲調になっていますが、雷鳴を模したと言われる激しい部分も登場します。さて、この日のアトリエは次のように構成されていました。1.史料とコンテクスト、2.言語と音楽、3.フランスとイタリア、4.形式とスタイルという4つのセクションがあり、それらの間に3回に分けて、学生による《テティス》の演奏がありました。
第1部、第2部、第4部は研究発表で、楽譜史料や当時の言説、《テティス》の音楽とテクスト(歌詞)の分析が行われました。テクスト分析とは、詩の技法や言葉の意味を踏まえた上で詞と音楽がどのように調和しているかを論じるもので、外国人の私にはハードルが高い分野です。ただ、「この詞になぜこのメロディーが付いているのか?なぜ他の音ではないのか?」という問いを立て、音楽が生まれる瞬間に遡って分析していく手法がとても興味深かったです。楽曲分析については、発表する人によって形式や和声など目の付け所が違うので曲の解釈が異なり、一つのカンタータが全く違うように見えることに驚きました。
一方、第3部は「ターブル・ロンドTable ronde」と言って、4,5人の研究者が集まって議論をする場になっていました。テーマは「《テティス》における『イタリア性』」。つまり、ラモーがフランス音楽とイタリア音楽の趣味をどのように混ぜ合わせているかということです。私は以前からバロック音楽における国民様式に関心があるので、このセクションはアトリエ全体の中でも特にわくわくしながら聞いていました。中でも、イタリア音楽の専門家バルバラ・ネストラさんが、A. コレッリのトリオ・ソナタを引き合いに出し、ラモーの音楽のもつ「イタリアらしさ」について話していたのが印象に残っています。曰く、《テティス》にはトリオ・ソナタを彷彿とさせるバスとヴァイオリンの動きやテンポ表記が見られることから、この曲が十分にイタリア音楽らしさを含んでおり、「歌詞つきのソナタsonate avec parôles」と呼べる、とのことでした。
このように、アトリエ・ラモーでは一つの作品について実に様々な角度から光が当てられます。《テティス》の回では10人の発表者がそれぞれ違った意見を述べていました。こうした場に居合わせると、作品の解釈にはいろいろあって良いのだと思えるし、また自分の研究に対しても新たな視点を注ぐことができます。また、一般に歴史研究というと一人で史料を探したり論文を書いたりと、孤独な時間が多いイメージもあるかと思います。しかしフランスに来てから、いろいろな立場の人と意見を交わすことも必要なのだと強く感じるようになりました。幸いパリではこのような研究会が頻繁に開かれているので、少しでも興味があるものには足を運ぶようにしています。ただ、5月末に楽しみにしていた若手研究者の発表会があったのですが、熱を出してしまい行くことができませんでした。食べ物や気候が日本とは違うので、知らないうちに体が疲れていたのかもしれません。今回のことで、つくづく日々の健康管理に気を付けようと思いました。

最後に、写真はクリニャンクール・キャンパスの近頃の様子です。冬の間は植物もなく、カラフルな建物がかえって寒々しく映ることもありましたが、今では緑が生い茂ってさわやかな風景が広がっています。写真を撮った日は生憎の曇り空、また試験が終わった後で静まりかえっていましたが、晴れた日は皆芝生に座ってランチを食べたりおしゃべりしたりと、とても賑やかな様子でした。

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