HOME

お問合せ

交通アクセス

日本語English

H26~フランス=ソルボンヌ大学からの留学報告Vol.8

d38916892cbd0b9efc4f852e27e6bcac_M.jpg音楽研究科博士後期課程(音楽学) 七條 めぐみさん

6月19、20日にソルボンヌ大学で "L'entretien sur la musique ancienne en Sorbonne" (以下:EMA)というイベントがありました。日本語では「古楽のつどい」といった意味の、18世紀以前の音楽についての学会です。ここで私は、フランスに来て初の研究発表を行いました。今月はそのことを中心にご報告します。
EMAは毎年6月にソルボンヌ大学で開かれている学会です。11回目を迎える今年は「古楽におけるボーダーとカテゴリー」がテーマとなっていました。2日間の日程の中に4つのセクションがあり、博士課程の学生や学内外の先生方による発表の他にラウンド・テーブルやシンポジウムも行われました。私は1日目の最初に「Armide de Lully à Amsterdam : arrangements et transferts stylistiques dans la suite publiée par Roger (ca. 1709) アムステルダムにおけるリュリの《アルミード》――ロジェ版組曲に見られる編曲と様式の変容――」というタイトルで発表しました。博士論文全体では、フランス・バロック音楽の「アムステルダム版」を扱っています。今回はその一例としてジャン・バティスト・リュリ(1632-1687)のトラジェディ・リリック《アルミード》を取り上げ、アムステルダムの出版社エティエンヌ・ロジェがフランスのオペラをどのように「加工」したのかを明らかにしました。
17世紀末から18世紀前半にかけて、アムステルダムではイタリア音楽やフランス音楽が盛んに出版されていました。当時のフランス音楽を代表するリュリのオペラは出版社の重要なレパートリーとなり、中でも器楽曲を抜粋した「組曲版」が数多く出版されました。これらの版は、曲の順序を入れ替え、もとの弦楽5部編成を4部編成に縮小するという独特の方法で編曲されています。先行研究によってアムステルダムの出版社の活動内容が明らかにされてきたものの、オペラの編曲という点に着目した詳細な研究は行われていません。そこで今回の発表では、アムステルダムの組曲版とパリの初版スコアを比較し、組曲版成立の実態に迫りました。
《アルミード》は1686年にパリで初演、スコアが出版され、1709年頃にロジェによって器楽組曲として出版されました。この楽譜はロジェの組曲版の中で唯一、アムステルダムで作曲家として活動したニコラ・ドロジエによる編曲に基づいています。ドロジエ版は2つのヴァイオリン・パートとバス・パートから成るトリオで、アムステルダムの出版社シュティヒターによって印刷され、ロジェの手で販売されました。パリのスコアとロジェ版、ドロジエ版を比較すると、ドロジエは新たな第2ヴァイオリン・パートを作り出し、旋律とバスをはっきりと対比させています。こうした書法からは、ドロジエがイタリアのトリオ・ソナタから影響を受けていることが窺えます。一方ロジェはトリオにヴィオラ・パートを加え、4声部としてのアンサンブルを完成させました。そうすることで、他の組曲版との統一性を保ったことが考えられます。このように組曲《アルミード》には、2人の編曲者の意図がそれぞれ反映されており、フランス・オペラが国境を越えて変容していく過程を見ることができるという結論に至りました。
発表後には、アムステルダム版の受容と、リュリの他のオペラの組曲版についての質問をいただきました。前者に関しては、当時ロジェがイギリスやドイツに支店を広げ、アムステルダム版が現在ヨーロッパ各地の図書館に点在していることから、幅広い地域でアマチュア向けに売られていただろうと答えました。また後者について現時点では、《アルミード》のみユニークな方法で編曲されたのではなく、オペラによって出回っていた楽譜が異なるために組曲版の成り立ちも様々であっただろうと考えています。さらに、オランダのような新教徒が多い地域の家庭では、カトリック地域とは全く異なる音楽生活があったという指摘もいただき、今後アムステルダム版の受容状況を掘り下げていく上で大変参考になりました。
今回のEMAでの発表は、3か月前に指導教授のルグラン先生が勧めてくださったことがきっかけで実現しました。フランスでの学会デビューにとても緊張し、私の研究がこちらの音楽学者にどう受け止められるのか不安でしたが、来ていた方々はとても温かく、終わった後には「おめでとう、良かったね」と声をかけてくれました。何より、フランス音楽のアムステルダム版の存在を知ってもらい、興味を持ってもらえたことが嬉しかったです。また、発表に向けて準備したおかげで研究を深め、次にやるべきことが見えてきました。博士論文を仕上げるにはまだまだ足りない所がたくさんありますが、一つ階段を上れたという実感があります。
最後に写真の紹介をします。学会当日のプログラムと、語学学校のクラスの写真です。今回の発表のために3月から語学学校に通い、担任の先生(前列左)には個人的に原稿の添削もしていただきました。当初はフランス語がなかなか上達しないことに落ち込んでいましたが、先生のオープンで面倒見の良い人柄と、感じのいいクラスメイトたちのおかげで元気を取り戻し、最後の1か月は特に必死で勉強しました。今後はしばらく、調査のために各国を回る予定です。春先と同じようにフランス語離れしてしまうのが心配ですが、今回のことを糧に頑張りたいと思います。

20140728-04_geijyutuka.JPG

[問い合わせ]

愛知県立芸術大学 学務課 学生支援・国際連携係
Tel:0561-76-2843
Fax:0561-62-0083
Mail:g-shien[at]mail.aichi-fam-u.ac.jp([at]を@に書き換えて送信してください)